2017年3月30日に,塩野義製薬が オピオイド誘発性便秘症治療薬 ( opioid-induced constipation – OIC ) の治療薬, スインプロイク錠0.2mg ( 一般名: ナルデメジントシル酸塩 )の製造販売承認を取得した。
2017年5月23日: 官報 号外 第107号で薬価収載日と薬価が発表されたで!
待ってました!ついに発表になりましたねぇ。
薬価収載日:2017年5月24日
薬価: スインプロイク錠 0.2mg 1錠あたり 272.10円
発売日も決定!2017年6月7日や!!
ということは,処方日数制限解除は2018年7月1日からやね。
オピオイドの3大副作用といえば,
- 眠気
- 悪心・嘔吐
- 便秘
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やけれども,この便秘に関してだけは耐性が形成されず,必ず出てしまう副作用。
そのため,多くのオピオイド患者さんの治療継続のカベになってきたのだ。
便秘なら酸化マグネシウム製剤やセンノサイドに代表される腸管刺激性の薬でなんとかなるのではないの?
と思う人もいるかもしれへん。でもね,これらの薬の作用機序ではオピオイド誘発性便秘症は解決できへんのが問題なんです!なので,どう違うのか?について本記事でバッチリ解説していこうと思う!!
オピオイド誘発性便秘症の機序については,【ナルデメジン】というオピオイド誘発性便秘症(OIC)治療薬が出る!?の記事で詳しく書いているので,確認してほしい。

今回は期待の新薬という事もあり,この記事をもって,スインプロイク錠0.2mgの一人勉強会をしていただけたらと思う。どこよりも詳しく,どこよりもわかりやすく書いていきます!
スインプロイク錠0.2mgの作用部位と作用機序を解説
まず,モルヒネなどに代表されるオピオイド鎮痛薬の作用する場所と効果について簡単に説明しよう。
作用するポイントは大まかに2つ
- 脳内のμ受容体(ミューじゅようたいと読む)・・・ここに作用することで鎮痛効果を発揮しているねん
- 消化管のμ受容体・・・ここに作用することで,消化管の運動抑制(筋緊張,蠕動運動の抑制,胃内容排出の抑制,消化管輸送の抑制)や消化管神経活動の抑制(サブスタンスPやアセチルコリン放出の抑制)およびイオンや腸液分泌の減少が複合的に起こり,結果として固形便や排便障害,膨満感,腹痛等を伴う便秘が引き起こされると考えられているねん。
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スインプロイク錠0.2mg(ナルデメジン)は,消化管のμ受容体に対してオピオイド鎮痛薬が働こうとするのを邪魔することによって,オピオイド鎮痛薬の副作用の便秘症状を改善する。
スインプロイクは,消化管のオピオイド受容体に結合し,オピオイド鎮痛薬に拮抗することによりOICを改善します。
多くのオピオイド鎮痛薬(モルヒネ,オキシコドン,フェンタニル等)の鎮痛作用は,主に中枢のµオピオイド受容体を介して発現します。
スインプロイクは,モルヒナン骨格を有する化合物であり,血液脳関門の透過性を低下させること等を目的として側鎖が付加されています。
スインプロイクは,中枢におけるオピオイド鎮痛薬の作用は阻害しにくいようにデザインされた末梢性µオピオイド受容体拮抗薬(peripherally-acting mu-opioid receptor antagonist: PAMORA)です。
シオノギ製薬HPより引用
従来の便秘薬の作用機序は?
従来の便秘薬といえば,酸化マグネシウムに代表される緩下薬と,センノシドに代表される大腸刺激性の便秘薬があった。これらの作用機序をざっくり補足として説明しよう。
酸化マグネシウムに代表される緩下剤の作用機序
酸化マグネシウムの作用機序はけっこう単純や。酸化マグネシウムは胃酸によって塩化マグネシウムに化学変化すんねん。
MgO + 2HCl = MgCl2 + H2O
こんな感じ。
さらに膵液(NaHCO3)と反応して,炭酸マグネシウム(MgCO3)や炭酸水素マグネシウム( Mg(HCO3)2 )に化学変化する。
これが腸管の中にあることで,腸管の外側よりも水分が少ないと体が判断して,腸管の中に水分が移行して入ってくるねん。
これによって便に水分が与えられて,膨張して腸もエエ感じに刺激して排便を催すってわけだ。
センノシドに代表される大腸刺激性緩下剤の作用機序
こっちはもっと単純。センノシドは内服した後,胃や小腸ではほとんど吸収されずにダイレクトに大腸に到達する。
そこで腸内細菌の作用でレインアンスロンって物質に代謝されるねん。このレインアンスロンが腸管粘膜やアウエルバッハ神経叢っていう腸の動きをつかさどる神経の集合体みたいなもんを直接刺激する結果,蠕動運動を促進させるわけ。
結果的に排便を促すってわけだ。

あれ?μ受容体に対してどっちも全然作用するメカニズムがかすってもないやん!!!そらオピオイド誘発性の便秘症に対して大して効かへんわけや!!!
スインプロイク錠0.2mgはオピオイド誘発性便秘症の71%の患者さんに効果あり!
オピオイド誘発性便秘症の患者の自発排便(Spontaneous Bowel Movement : SBM)のレスポンダー率及び回数をプラセボと比較して優位に改善した。
⇒ プラセボ群は96人の被検者のうち,レスポンダー率が34.4%でレスポンダー率の95%信頼区間は[24.98%-44.77%]
⇒スインプロイク錠0.2mg/日 群は97人の被検者のうち,レスポンダー率が71.1%でレスポンダー率の95%信頼区間は[61.05%-79.89%]
であった。ちなみにこの結果のP値は<0.0001であった。
レスポンダー率というのは,
- 自発排便回数が3回/週以上かつ
- 週当たりの排便回数の基準から1回/週以上増加した患者の割合の事。
言うたら4回/週以上の自発排便が最低でもあるようになるってことやで。
まずはここまでで,スインプロイク錠0.2mgの作用機序と効果がどんなものなのかを示してみた。
ぶっちゃけて,オピオイド誘発性便秘に対してここまで効くのはすごいわ!



やっぱりオピオイド鎮痛薬が腸のμ受容体に作用することで起こる便秘やねんから,その作用点を直接邪魔してくれるサインプロイクは効くに決まってるわなぁ!!
慎重投与として,脳腫瘍などの血液脳関門の機能不全や機能不能が疑われる患者があるので覚えておいて!!
これ,大事。
スインプロイク錠は末梢のμ受容体に効かせたい薬やん?その為にも脳の中に入らないように構造を工夫して,血液脳関門という脳の中に薬の成分が入らないようにする体の防御機能にひっかかるようしているわけやねん。
しかし!脳腫瘍(転移性を含む),エイズに伴う認知症,多発性硬化症,アルツハイマー型認知症などはこの血液脳関門がちゃんと働かなくなっているため,スインプロイク錠が脳の中に入ってしまう可能性があるねん。
当然,脳の中のμ受容体に対してオピオイド鎮痛剤が効こうとするのを邪魔してしまうから,鎮痛効果が下がってしまうわけや。
なので,こういった患者さんに対しての投与は慎重投与になってしまうで!
そのほか,薬剤師的に気になるポイント:光や湿度には安定か?1包化できる??どんな錠剤なの?割線はあるの?
これに対する回答はインタビューフォームに載っている。
有効成分の各種条件下における安定性 ~とにかく安定なスインプロイク錠0.2mg~
長期保存試験:条件⇒30℃/湿度65%/遮光 にて ポリエチレン袋(2重) に 36か月間保存の結果・・・変化なし
加速試験:条件⇒40℃/湿度75%/遮光 にて ポリエチレン袋(2重) に 6か月間保存の結果・・・変化なし
過酷試験:条件①⇒50℃/遮光 にて ガラス瓶・密栓 に 6か月間保存の結果・・・変化なし
過酷試験:条件②⇒25℃/湿度85%/遮光 にて シャーレ に 6か月間保存の結果・・・変化なし
過酷試験:条件③⇒40℃/湿度75%/遮光 にてガラス瓶・開栓 に 6か月間保存の結果・・・変化なし
過酷試験:条件④⇒25℃/D65ランプ(4000ルクス) にて シャーレ・ポリ塩化ビニリデンフィルム で 120万lx・hr・・・変化なし
はい,とにかく安定してまーす!
この試験からわかることとして,温度に対しても湿度に対しても,光に対しても安定であることが分かる。
つまり,1包化は問題なくできる。
ただし,半分に割ってみての試験がないので,半錠にした場合の安定性は不明や。半錠にしたのち速やかに服用すれば問題ないと思われるが。
それでも添付文書上の貯法・保存条件は・・・
遮光・機密容器・室温保存となってます。
こんなに,光にも安定やし,吸湿性もないのになぁ。不思議。
ちなみに錠剤ってどんな形でどんな色で,コーティングなどはどうなってんの??
- 錠剤は黄色の円形,フィルムコーティングされた錠剤
- 大きさは直径6.5mm,厚さ3.5mm
- 刻印は塩野義のマークに「222」と表に書かれていて,裏には0.2と刻印されている。
- 割線はない
- 重量は 約0.12g / 錠
あとはスインプロイク錠0.2mgの適応症,用法・用量,薬価,何錠入り包装化など基礎情報を記すで!
ここまででひとまず,大事で最も気になる点についてはまとめたので,基礎情報を残り後半はまとめておくとしよう。
適応症は?
オピオイド誘発性便秘症
薬価は?包装は何錠入り??
まだ薬価収載されていないので,不明
2017年5月24日に薬価収載され,1錠 272.10円となりました!(2017/5/23官報 号外 第107号 より)
包装はね,10錠×5の50錠入りやで!!!
用法・用量は?
通常,成人にはナルデメジンとして 1回 0.2mg を 1日1回 経口投与する。
食事の影響は考えなくていい!
スインプロイク錠0.2mgの薬物動態(吸収・代謝・排泄)について
基本情報だが大切なのできっちりおさえよう。
吸収について:スインプロイク錠が食事による影響を受けるのか?肝・腎機能低下患者さんや高齢者さんで吸収量が増えることはあるのか?
それでは,まずは吸収について見出しの順に確認していこう。
食事による影響で血中濃度が上がったり下がったりすることはあるのか?
食事摂取による吸収の遅延が示唆されるものの,吸収量への影響は認められていない。
ちなみに,高脂肪食を摂った食後にナルデメジン0.2mgを服用した場合,空腹時に服用するのと比べて,最高血中濃度が35%低下してというデータがあるものの,血中濃度の立ち上がりが遅くなるだけであり体に吸収される量に変化はなかってん。



つまり!食事によって効果が落ちるっちゅうことはないってことや!!
腎機能が悪い患者さんへの投与で,効果が落ちたり逆に効き過ぎることはあるか?
腎機能が,健康成人と比較して低下している状態の患者さんに対しての,AUC(ナルデメジンの体の中での濃度や効果持続時間)が何倍になったかを示すで。
- 軽度低下している・・・1.08倍
- 中等度低下している・・・1.06倍
- 重度の低下・・・1.38倍
- 末期腎不全患者・・・0.83倍
このような結果が出ている。
健康成人に対して腎機能低下状態の患者さんにおいて,血中濃度に大きな差はない。
ちなみに,血液透析によってナルデメジンはほとんど回収されず回収率や除去率はそれぞれ2.7%,8.2%です。
これはどういう意味を示すかというと,スインプロイク錠を多く飲み過ぎたとしても,血液透析によって薬を除去して解毒することはできないってことですわ。
肝機能が悪い患者さんへの投与で,効果が落ちたり逆に効き過ぎることはあるか?
次に,肝機能が健康成人と比較して低下している状態の患者さんに対しての,AUC(ナルデメジンの体の中での濃度や効果持続時間)が何倍になったかを示すで。
- 軽度低下している(Child-Pugh 分類 A)・・・0.83倍
- 中等度低下している(Child-Pugh 分類 B)・・・1.05倍
このような結果が出ている。
やはり健康成人に対して肝機能低下状態の患者さんにおいて,血中濃度に大きな差はない。
高齢者など,年齢によって吸収量が変化することはあるのか?
年齢による薬物動態への影響はなかった。
代謝について:スインプロイク錠は肝代謝型?腎排泄型?
これは明確で,肝臓にて代謝される。
スインプロイク錠は肝代謝型薬物や。
代謝経路はCYP3A4による代謝
これ重要なので知っておきたい。主にCYP3A4によって代謝されていくため,CYP3A4が絡む薬との間で薬物相互作用が起こる。
CYP3A4絡みの薬との相互作用
CYP3A誘導剤のリファンピシンとの併用により,血中最高濃度は38%,AUCが83%低下している。これは作用時間がかなり短縮されることを意味しているので,併用は避けるべきと考えていいだろう。
CYP3A阻害剤のイトラコナゾールなどとの併用により,最高血中濃度は1.1倍,AUCが2.9倍に増大しているデータがある。これの場合には血中濃度が高くなりすぎるため,副作用発言リスクが増大するものと思われる。
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排泄について:スインプロイク錠はどうやって体の外に出ていくのだろうか?
投与量の20%が尿中に未変化体として排泄される。
あとは肝臓にて代謝されたものが尿中及び糞中に排泄される。
まとめと,長期処方が可能になる時期を書いて締めます。
スインプロイク錠の情報をまとめます。
- スインプロイクは消化管のオピオイドμ受容体に結合して,オピオイド鎮痛薬に拮抗することによってOICを改善する
- オピオイドによる便秘は耐性ができず,酸化マグネシウムやセンノサイド製剤では治療困難だったのでスインプロイクに期待が高まる
- トラマドールなどの弱オピオイドによる便秘でも使える(👈一応書いておく)
- 食事摂取による吸収の遅延が示唆されるものの,吸収量への影響は認められていない
- 肝機能低下状態の患者さんにおいて,血中濃度に大きな差はない。
- 腎機能低下状態の患者さんにおいて,血中濃度に大きな差はない。
- スインプロイク錠は肝代謝型薬物。CYP3A4が絡む薬との間で薬物相互作用が起こる。
- 薬価はスインプロイク錠 0.2mg 1錠あたり 272.10円で,用法・用量は1日1回,1錠を服用する。
早足でまとめたので,あまりまとまりがよくないかもしれませんが,オピオイド誘発性便秘症に対する治療薬が出たというのは非常に臨床上意義があることなので,急いで記事にしました。
長期処方が解禁になるのは2018年7月1日から!
薬価収載日:2017年5月24日
販売開始:2017年6月7日
そやから,処方日数制限解除は2018年7月1日からやで!!



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コメント一覧 (7件)
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在宅緩和ケアが得意な開業医です。大変よくまとまっていて勉強になりました。発売されたら直ぐに使いたかったので助かりました。有難うございます。
ただ、一ヶ所誤変換があります。「食事摂取による九州の遅延が示唆されるものの、」→吸収ですので、お願いします。
たっちゃん先生 様
コメントありがとうございますっ!
九州→吸収に訂正致しました。いやぁ、恥ずかしい以外のなにものでもないです。ご指摘頂きありがとうございました。
わかりやすい説明をありがとうございます。スインブロイクですが、シンバスタチンやシンメトリルなどシンではじまる医薬品は多く、特に混同しやすい名前は困るので変更すべしになります。シンバルタもサインバルタに変身してしまいましたが慣れると これはこれで違和感はないですね。
かずう 様
コメントありがとうございますっ!
なるほど。類似銘柄への対策という視点がありましたかぁ~。
※シンバスタチンは成分名で商品名はリポバスやから関係ないかもです・・・。
総合病院の門前薬局の薬剤師です。明日、勉強会なのですが、その前に一人勉強会できそうです。いつもとても勉強になっています。
あるくことがすき 様
コメントありがとうございます!
すっごく嬉しいです!少しでもお役に立てて何よりです!
これからも少しずつですが記事を書いてまいりますので、本ブログをよろしくお願いいたします。