チオトロピウムのレスピマット製剤はカプセルと比較して安全なのでしょうか?JJCLIP_#48
2017年9月24日(日)のJJCLIP配信の内容をまとめました。祝!4周年の配信です!!
今回のツイキャスでは,チオトロピウム吸入デバイスによる違いが臨床的にどのようなアウトカムにつながるのか?を論文を読みながら検討していきました。
いつものことながら,今回のツイキャスからも学ぶことが非常に多かったのでここに記録しようと思います。
チオトロピウムのレスピマット製剤はカプセルと比較して安全なのでしょうか??
仮想症例シナリオ #JJCLIP48
【仮装症例シナリオ】
あなたは,とある街の薬局の管理薬剤師さんです.
朝晩の気温差が大きくなった9月,風邪予防商品のポップ作成を考えていたある日,
近隣の医院よりお電話がありました.医師:
『ついさっき,MRさんが訪問して,スピリーバのレスピマットを紹介されたんだ.うちはずっとカプセル剤だったけれど,話を聞いてたら,レスピマットに変更してもいいのかなって思っちゃってね.そちらには在庫はあるかな?
あと,本当にレスピマットの方が患者さんにとって,たとえばデバイスの違い以外に,何かメリットがあるのかな?
先生,どう思います?教えてもらえないかな?』
その場で即答はせずに,折り返し返事をすることにしたあなた.
参考になりそうな論文を探してみると,チオトロピウムの製剤の違いと死亡についての報告を見つけることができたので,早速読んでみることにしました.
【論文タイトルと出典】
Wise RA, Anzueto A, Cotton D, et al.
Tiotropium Respimat inhaler and the risk of death in COPD.
N Engl J Med. 2013;369(16):1491-501.
PMID: 23992515https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23992515
PDF→http://www.nejm.org/doi/pdf/10.1056/NEJMoa1303342【使用するワークシート】
ランダム化比較試験を10分で吟味するポイントhttp://j.mp/jjclipsheet1
(@syuichiao先生のブログより)
*シナリオのPECOを書こうッ!!
- P:スピリーバハンディヘラー使用中のCOPD患者
- E:レスピマットへ変更
- C:ハンディヘラーを使っているまま
- O:デバイス変更によるアドヒアランスがどう変わるか? 効果,安全性はどうか? SGRQ COPD QOL評価は? 死亡率はどうなのか?
COPDの真のアウトカムって何を主眼に置くんだろう?
本人が苦しくないってことではないか?
QOL改善のための薬なので,スコアをみるのも1つの重要な評価かもしれない。
これについてはSGRQ COPD QOL評価というものがある。主観的なものなのでこれをどう客観的に臨床に活かすのかは難しいところである。
呼吸器疾患についてはQOLを測ったスコアに学術的に有意差があったとしても,臨床的に意味があるのか?2者の間には乖離があるようにも思えるので,論文は注意深く読む必要がありそう。
そういった意味では,やはり死亡率という不動の客観的な真のアウトカムは意識しておくべきことかもしれない。
*SGRQ COPD QOL評価ってなんだ?
SGRQ(St。 George’s Respiratory Questionnaire)は COPD における疾患特異的な健康関連 QOL 評価尺度として開発されました。
症状(咳,呼吸困難,喘鳴)やその症状による社会的影響,心理的影響の経時的変化が評価できるように構成されています。
医療介入による変化の描出能力に優れています。
質問票は 50 項目から成り,Symptom(症状),Activity(活動),Impact(衝撃)の 3 つのコンポーネントに分けてそのスコアが計算される。また,その 3 スコアを合計して総スコアを求めることが可能である。• Symptom(症状):咳,痰,喘鳴,呼吸困難といった症状の頻度と程度
• Activity(活動):呼吸困難によって制限される日常生活あるいは呼吸困難を生じさせる日常生活の活動レベル
• Impact(衝撃):COPD により影響を受ける社会活動や心理的な障害など各コンポーネントのスコアは,すべての項目の重みの合計に対する陽性回答の重みの合計の割合(%)で示されます。
各スコアは 0~100 の範囲で,「0」は障害がない状態,数値が大きいほど障害が大きいことを示します。http://www.st-medica.com/2014/01/sgrq-copd-qol.htmlより引用
今回のチオトロピウムを題材としたツイキャスのポイントは? ➡ 非劣勢試験にITT解析は適さない!
非劣勢試験は片側検定。
研究結果にはハザード比と信頼区間があるけれど,今回の信頼区間の非劣性マージンが1.25と設定されている。
信頼区間が1.25以下であれば,レスピマットのデバイスはハンディヘラーは少なくともアウトカムは増えない,非劣性であると言える。
なぜITT解析ではダメか?
95%信頼区間 が狭くなってしまうから。つまり,信頼区間が狭くなるということは非劣性マージン内に収まりやすくなってしまう!
結果的に非劣勢が示されやすくなってしまうので,非劣勢試験においてはITT解析を用いることは非劣勢を示してしまいやすくなるため適していないのだ!!
COPDにおけるチオトロピウムレスピマット吸入と死亡リスク。この論文をワークシートを使って読み解きます
それでは,問題の定式化からはじめていきます。
問題の定式化:PECOを書いていくでッ!!
- P: COPDの患者17135人(平均65歳,心疾患ハイリスクは除外)が
- E: E1:1回2.5μg/日のチオトロピウムレスピマットを使っている E2:1回5μg/日のチオトロピウムレスピマットを使っている
- C: チオトロピウムハンディヘラー18μg/日を使用
- O: 死亡リスク(非劣性検討),COPDの増悪(優越性検討)

今回のPECO(PICO)はこんな感じでどうやろか?
チオトロピウムレスピマット VS ハンディヘラー論文のチェックポイント6項目を書き出す!
- ランダム化されているか?➡ されている
- 1次アウトカムは明確か?(1つに限定されているか?)➡ 明確である。アウトカムは2つあるが,片方が非劣勢試験
- 真のアウトカムか?➡ 真のアウトカムである(FEV1などが主要アウトカムなら代用のアウトカムである)
- 盲検化されているか?➡ 二重盲検化されている 2つの吸入薬を渡されている(ダミーデバイスを使ってる)
- 解析方法は?➡ modified ITT解析 (非劣勢試験なので,ITT解析ではダメ)
- 追跡期間・状況は?➡ 追跡期間2.3年間 , 脱落48人
論文の結果を書き出すど~ッ!!!
平均 2.3 年の追跡期間中に出た結果は以下の通り。
死亡リスクに関してチオトロピウムレスピマットはハンディヘラーに対し非劣性であった
5 μg レスピマット 対 ハンディヘラーのハザード比 0.96,95%信頼区間 [CI] 0.84~1.09
2.5 μg レスピマット 対 ハンディヘラーのハザード比 1.00,95% CI 0.87~1.14
非劣性マージン1.25のため。
*ただし,この試験はベーリンガーの出資で行われているものであり,非劣勢マージン1.25が妥当なのかどうかが微妙である。
初回増悪リスクに関してはチオトロピウムレスピマットのハンディヘラーに対する優越性は示されなかった
5 μg レスピマット 対 ハンディヘラーのハザード比 0.98,95% CI 0.93~1.03
2.5 μg レスピマット 対 ハンディヘラーのハザード比 1.02,95% CI 0.96~1.07
死亡原因および主要心血管系有害事象の発生率は 3 群で同等であった.
けいしゅけの考察:論文の結果から得られた情報を吟味していくでッ!!!
2011年にはチオトロピウムミスト吸入器は,死亡リスクの有意な増加と関連していた(相対リスク1.52,95%信頼区間[1.06〜2.16]; P = 0.02; I 2 = 0%)。10μg(2.15,95%信頼区間[1.03〜4.51]; P = 0.04; I 2 = 9%)および5μg(1.46,信頼区間[1.01〜2.10]; P = 0.04; I 2= 0%)
このような研究が過去にあるのでこの研究自体に
今回の結果は仮想シナリオの患者さんにどう適用できるやろか?
- 今回の結果を受けると,効果に対して差はなさそうなので,このエビデンスでもってレスピマットを積極的にお勧めはし難い
- 使い慣れたハンディヘラーを使ってもいいのではないか?
- 例えば夏場。冷蔵庫に入れてなければハンディヘラー用のカプセルがグニャグニャになって針が刺さらなくなる事例がある。よって患者さんの自宅の環境も考える必要がある。
- 患者さんにとって使いやすい,使えるデバイスが違ってくることがあるので,ドクターに対しては患者さんに応じてどのデバイスにするかを検討していくのかが大事かもしれない



今回の記事はいかがでしたか? アナタのお役に立てていれば幸いです! もし良ければコメント欄から記事を読んだ感想や,ご意見,ご質問など寄せて下さい☆待ってます!!
記事の感想など,ひとこと頂けますか?
コメント一覧 (1件)
[…] チオトロピウムのレスピマット製剤はカプセルと比較して安全なのでしょうか?JJCLIP_#48 […]