
おや?
タコちゅけどうした?
処方箋をジッと見つめたりして。
恋してんのか??



(してねーよ)
あ,あのぅ,先生・・・
これ見てください。
【RP.1 パリエット錠10mg 1回1錠 1日2回 朝・夕食前 】
この処方,いったいどういう意味なんでしょうか??
全くわからないんでちゅ。



良い処方に当たったやん!!!
これは面白いで!!
実はこの処方,めっちゃくちゃ理由がありますねや☆
ちょっと待っとき,論文もってくる。
ほかにも資料を・・・よっこいしょっと。
タコちゅけ,今日はPPIやちょっとだけH2ブロッカーも絡めて話をしていこうと思う。



理由があるんでちゅか!?
先生,是非とも教えて欲しいでちゅ!!
よろしくお願いしましゅ!!
PPI(プロトンポンプ阻害薬)が1日2回食前で処方された!この処方にエビデンスはあるのでしょうか??
私的背景
- オメプラール(オメプラゾール)
- タケプロン(ランソプラゾール)
- パリエット(ラベプラゾール)
- ネキシウム(エソメプラゾール)
これらPPIが「1日2回」の用法で処方されている,しかも「食前」に!
これはおかしい!そう思って疑義照会しても,ドクターに冷たく
「そのままでいい」
と言われてしまった。
「いったい,どうしたらいいの??」
「そもそも,このPPIの食前・1日2回処方にエビデンスはあるの??」
といった質問を受けることが実際に複数回ありましたので回答を共有しようと思います。
それでは,本文に入っていきましょう。
タコちゅけの質問に,けいしゅけがふざけた話口調でありながらも本気で答えていきます。
通常1日1回の用法のPPIを,「1日2回」「食前」に服用する意味とは?
ひとまず,添付文書上の基本的な使い方を確認してみると
- オメプラール(オメプラゾール)・・・1日1回
- タケプロン(ランソプラゾール)・・・1日1回
- パリエット(ラベプラゾール)・・・1日2回(治療・維持療法どちらも1日2回可能)
- ネキシウム(エソメプラゾール)・・・1日1回
ヘリコバクター・ピロリの除菌の補助には共通して1日2回の用法・用量が承認されている
ちなみに,ピロリ菌除菌についてはどの製剤も1日2回の投与が認められている。 1) 2) 3) 4)



パリエットに関しては,2017年9月22日に公式発表があったのを知ってる?
プロトンポンプ阻害剤抵抗性逆流性食道炎(プロトンポンプ阻害剤の1日1回投与による従来の治療で効果不十分な逆流性食道炎)
に対する維持療法に関して,ラベプラゾールナトリウムとして1回10mg 1日2回投与の用法・用量追加の承認を取得したんやで☆
ちなみに,ネキシウム(エソメプラゾール)は2014年の10月31日に1日2回の用法・用量の追加申請をしている。そやけど,まだ承認はされてへんねん。



へぇ,1日の服用回数ってパリエットだけが1日2回の保健適応が通っているんでちゅね。
あと,1日1回(もしくは2回)と書いているだけで,食事の前か後かについてはもともと記載されていないっ!!
けど,一般的に飲み忘れしにくい理由で食後がいいイメージがあるでちゅ。
食事の前に飲むと効果が上がるなんてこと,あるんでしゅか???



よし,まずは食事の前に服用することで効果が高まる可能性についてのエビデンスをみていこうか!!
PPIを「食前」に飲むと効果が高まりますか??
PPIの服用方法について,添付文書には1日1回経口投与とのみ記されてると書いてきました。
ほんじゃ,「いつ飲むのが最も効果的になり得る可能性が高いのか?」を探っていこう。
健康成人 24 例を対象に,エソメプラゾール 40mg 注)を空腹時又は食事(標準的朝食)摂取後に 1 日 1 回 5 日間反復経口投与し,エソメプラゾールの血漿中濃度に及ぼす食事の影響を検討した結果,
エソメプラゾールの AUC 及び Cmaxは食事摂取により低下したが,胃内 pH に対する影響が認められなかったことから,
エソメプラゾールの臨床効果に対して食事の影響はないと考えられる。
ネキシウムインタビューフォームより引用
健康成人男子12名にラベプラゾールナトリウムとして1回20mgを絶食下あるいは食後に投与した場
合の血漿中濃度の時間的推移を下図に示す。食後投与では,絶食下投与に比しtmaxは1.7時間遅延した
が,Cmax及びAUCにおいて差は認められなかった。パリエット錠インタビューフォームより引用
食後投与においては絶食下投与に比べ,Tmaxは延長し,Cmaxは低値を示したが,AUCにおいては大きな差はみられなかった。
タケプロンインタビューフォームより引用
オメプラール錠に関してもインタビューフォームを見る限り,食後の投与によってCmaxの遅延が1時間ほど起こっている。AUCに関しては食後投与でわずかに増加している。
- まず,PPIは食事摂取によって効果発現がどれもおよそ1時間は遅延することがインタビューフォームからわかる
- おおよそだが,PPIの効果が最も強く出るのは「空腹時服用」の約2時間後
- 胃のプロトンポンプは食事などが胃の中に入ってきた刺激によって活性化する
- PPIは名前の通りプロトンポンプ阻害薬やから,プロトンポンプが活性化しているときに最も効く状態にあるのが望ましい!
つまり,食事の30分から1時間前にPPIを服用する「食前」投与は,理屈上イッチバン効果的にプロトンポンプを阻害できるタイミングであると言える!
ほんじゃ,朝食前・昼食前・夕食前,いつが良いのか?
当然こうなりますわな。
これは個人間での差が大きいので一概には言えないものや。
起きている間に胃の症状が強い人であれば,日中の胃酸分泌抑制を中心に考え朝食前に服用が良いやろうね。
もしも寝ようとしたタイミング辺りから胃酸が上がってくるねん!っていう場合,夜間胃酸分泌抑制を中心に考えて夕食前や眠前に服用するのが良いねん。



なるほど・・・
ここまでインタビューフォームから体内動態,作用発現機序をガッツリ考えてみたことがなかったでちゅ!
おもしろいでしゅね,先生!!



たまりまへんなぁ☆
この考え方を身につけておけば,PPIの服薬指導はもちろん,他の薬の効き方を考える良いヒントにもなるんとちゃうかなぁ?
体内動態,けっこうおもろいよな☆
PPIは1日2回飲むと効果が高まりますか??
はい!PPIは1日2回飲むと効果が高まると言われています!! 5) 6)
実はこの問題は論文から答えを導き出した。
2004年と2013年の論文とやや古いものであるんやけど,興味深い内容や。
ただし,維持療法としてPPIの1日2回投与はラベプラゾール(パリエット)のみが保険適応として認められていることに注意が必要や。
効果的にはエソメプラゾール(ネキシウム)が勝っているのが分かっているだけにちょっと歯がゆい現状がある。
夜間の胃酸過多が起こる難治性逆流性食道炎(NAB)には例外としてPPIにH2ブロッカーを追加で飲むことがある!
Nocturnal Gastric Acid Breakthrough( NAB ) ってなんですか??
NABは,PPI(プロトンポンプ阻害薬)投与中の夜間に胃内pHが4.0以下に1時間以上にわたって低下するような現象のこと。 7)
そして,その対策として,PPIを服用している患者さんに,「就寝前に服用」という用法でH2ブロッカーを出すという方法があるねん!!
詳しくは論文を引用しよう
【要旨】
Nocturnal Gastric Acid Breakthrough(NAB)は,プロトンポンプインヒビター(PPI)投与中の夜間に胃内pHが4.0以下に1時間以上にわたって低下するような現象をいう.
この現象は,PPIの酸分泌抑制効果が夜間に減弱するために起こるのではなく,日中はPPIで1/10となった分泌胃酸を食物が中和しているが,夜間は胃内が空虚であり,少量の胃酸が存在していても胃内pHが低下しやすいために出現すると考えられる.
NABはHelicobacter pylori(H.pylori)感染陰性例に起こりやすいが,PPIの長期投与を必要とする頻度が高く,かつ夜間に酸逆流の多いgradeの高い逆流性食道炎はH.pylori感染陰性例が多い.
したがってPPI長期投与中に再発したり,治療に抵抗する例を診た場合には,NABの存在を念頭においた治療が必要となる.
臨牀消化器内科 Vol.17 No.2(6) http://www.nmckk.jp/thesisDetail.php?category=clga&vol=17&no=2&d1=6&d2=0&d3=0&lang=ja より引用



こうしたわけで,例えば
RP. 01)ネキシウムカプセル20mg 1回1Cap 1日1回 朝食前 14日分
RP. 02)[般] ファモチジン口腔内崩壊錠20mg 1回1錠 1日1回 就寝前 14日分
みたいな処方が有り得たってわけや。
ちなみにPubMed検索をしてみると,H2RAをPPIに併用することによって胃の中のPH<4になってしまうNABを改善できましたで~っていう論文も出てきたで 8) 。



こんな処方・・・イキナリ見たらビックリしてしまいましゅ!!
マジか!!! これは知っておこう!! PPIとH2ブロッカーの併用は保険適応から外れています!!
これは2017年の9月25日に「支払基金における審査の一般的な取扱い(医科)(第2回)」で公式に発表されている情報や。
PPI抵抗性の難治性逆流性食道炎については,
PPIの弱点である夜間の効果減弱すなわち nocturnal gastric acid breakthrough(NAB)に対して,
速効性のあるH2ブロッカー投与が効果的であるとの報告はあるが,
その効果は1週間程度で長期投与では効果が減弱するとの報告もあり,
併用による効果について一定の見解は得られていない。
PPI抵抗性の難治性逆流性食道炎に対しては,まずPPIの倍量あるいは 1 日 2 回投与が強く推奨されている。(胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2015)
支払基金における審査の一般的な取扱い(医科)(第2回)より引用



ふむ。
これは知っておかなきゃマズイね。
たしかに,H2RAとの併用は有効なものの,2週間ほどで効果が減弱したという論文も見つかるもの。 9)
今までは通っていた保険適応が通らないよ!って宣言されてしまったわけや。
タコちゅけ,覚えておこうね。



はいっ!!!
・・・けど,残念でちゅね。
PPI+H2RAってけっこうイケてる処方の印象があったのに。



せやなぁ。
僕もこれはビックリしたわ。
でも,しゃーないよ。これは決定した事やからね。むしろ,知ったうえで今後どうやって対処していくかを学ぶ方向にシフトせにゃならんわ



了解でちゅ!!
1) オメプラール錠 添付文書
2) タケプロンOD錠 添付文書
3) パリエット錠 添付文書
4) ネキシウムカプセル 添付文書
5) Rabeprazole 10 mg twice daily is superior to 20 mg once daily for night-time gastric acid suppression.Aliment Pharmacol Ther.
2004 Jan 1;19(1):113-22.
PMID: 14687173
6) Twice-daily dosing of esomeprazole effectively inhibits acid secretion in CYP2C19 rapid metabolisers compared with twice-daily omeprazole, rabeprazole or lansoprazole.
Aliment Pharmacol Ther. 2013 Nov;38(9):1129-37. doi: 10.1111/apt.12492. Epub 2013 Sep 16.
PMID: 24099474 DOI: 10.1111/apt.12492
7) GERD最近の治療 島根大学医学部 消化器・肝臓内科学 木下 芳一 http://www.jsgs.or.jp/cgi-html/edudb/pdf/20050041.pdf
8) Addition of a H2 receptor antagonist to PPI improves acid control and decreases nocturnal acid breakthrough.
J Clin Gastroenterol. 2008 Jul;42(6):676-9. doi: 10.1097/MCG.0b013e31814a4e5c.
PMID: 18496394 DOI: 10.1097/MCG.0b013e31814a4e5c
9) プロトンポンプ阻害薬抵抗性の逆流性食道炎への対応 日消誌 2006;103:1233―1237 足立経一 https://www.jstage.jst.go.jp/article/nisshoshi/103/11/103_11_1233/_pdf



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コメント一覧 (5件)
これ、気になってたことでした!納得できてスッキリしました☆お勉強になりました。先輩、ありがとうございます!
Kaori さん
おー!コメントありがとう!!!
改めてコメントで返事をするのがなんか変な感じやけど、少しでも役に立ったなら本当にうれしいよ!
これからもおもしろい記事が書けるように頑張るわ☆
けいしゅけさんお疲れ様です。
『元ボクサーの一念発起』のいごっそう612ですが、質問です。コメント欄に質問してしまいスイマセン。
花粉症で、エピナスチン塩酸塩という薬を処方してもらってるんですが、市販薬で同じような薬はあるのでしょうか?あったら教えて頂きたいです。
いごっそう612 さん
お世話になっております!
はい!市販薬で「アレジオン20」という商品名で全く同成分の商品が売られています☆
病院受診せずとも手に入れることはできますよ☆
「アレジオン20」ですね!ありがとうございました。