ACCORD試験の概要と結果
ACCORD試験( PMID : 18539917 )の概要
2008年6月に発表された論文である。
ACCORDはAction to Control Cardiovascular Risk of Diabetes の略
論文のCitation
N Engl J Med. 2008 Jun 12;358(24):2545-59. doi: 10.1056/NEJMoa0802743. Epub 2008 Jun 6.
Effects of intensive glucose lowering in type 2 diabetes.
Action to Control Cardiovascular Risk in Diabetes Study Group, Gerstein HC, Miller ME, Byington RP, Goff DC Jr, Bigger JT, Buse JB, Cushman WC, Genuth S, Ismail-Beigi F, Grimm RH Jr, Probstfield JL, Simons-Morton DG, Friedewald WT.
論文の結論
厳格な血糖コントロールは大血管イベントを減らさず,それどころか心血管イベントリスク上昇という悪影響が増える可能性を示した臨床試験であーる☆

ダイジェスト版を紹介しました。それでは,ここからガッツリとACCORD試験論文 Effects of Intensive Glucose Lowering in Type 2 Diabetes を読み込んでいきましょか~🎵
論文に書かれている内容を定式化していく
まず,問題の定式化からはじめていこかぁ~。
問題の定式化とは?
どんな患者さんに,何をしたら,何をするのと比べて,どうなるのか?
このように論文に書かれている内容をまとめることを言います
問題の定式化:PECO(PICO)を書いていくでッ!!
- P: HbA1cの中央値が 8.1 % である 10.251 人 の患者さん(平均年齢 62.2 歳,女性が 38 % ,糖尿病罹患期間は中央値で10年,参加者の35 %は以前に心血管イベントを経験していて,5%は以前にうっ血性心不全を経験している)が
- E: HbA1c 6.0 % 未満を目標とする厳格な血糖コントロール治療を受けた場合に
- C: HbA1c 7.0 % ~ 7.9 % を目標とする標準的な血糖コントロール治療を受けた場合と比べて
- O: 心血管イベントを減少させることができるのか?

今回のPECO(PICO)はこんな感じでどうでちゅか?

うん,おっけーやね☆
論文のチェックポイント6項目を書き出すでッ!!!
- ランダム化されているか?➡ ランダム化されている(Methodsの最初に書いてる)
- 1次アウトカムは明確か?(1つに限定されているか?)➡ 明確である。[MACE:心血管系有害事象(非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中,心血管イベントによる死亡)・・・複合エンドポイント] ※複合エンドポイントやけど,Methodsに「The primary outcome was~」と単数形で書かれており,エンドポイントは複合アウトカムとはいえ1つに絞ってあるので,明確であると判断しました。
- 真のアウトカムか?➡ 心血管イベントは一時的な数値ってものではないし,生命に関係するものやので,真のアウトカムだと言える。
- 盲検化されているか?➡ オープンラベル。盲検化はされてない。
- 解析方法は?➡ ITT解析(STATISTICAL ANALYSISの 3 段落目の 2 行目に書いてる)
- 追跡期間・状況は?➡ 平均追跡期間は 3.5 年 介入期間中,非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中,または心臓血管イベントが723人の患者で生じ,種々の原因により460人の死亡があった。データおよび安全性監視委員会によってレビューされたデータでは,過去12ヶ月間の患者の97.8%において生存状態が確認された。50人の患者(0.5%,厳格治療群では26人,標準治療群では24人)が追跡調査に失敗し,162人の患者(1.6%,厳格治療群では84人,標準治療群では78人)が同意を撤回した。同意を撤回したか,またはフォローアップに失敗した患者の平均経過観察時間は,厳格治療群で1.2年,標準療法群で1.0年であった(P = 0.22)。

先生っ,血糖コントロールによって心血管イベントを抑制できるのか?を調べてんはるのに,集められた患者さんの中には以前に心血管イベント経験者をそれぞれの群に約35%も入れたのは何でなんでちゅか?そこがひとまずわからへんのでちゅよ~。

うん,心血管イベントを起こしたことがある人ってまた起こす可能性があるやん?いわゆるハイリスク患者さんや。そういう人を対象に組み込んで,厳格な血糖コントロールがイベント抑制に恩恵を与えるかをACCORD試験は追い求めたんや。
論文の結果を書き出すど~ッ!!!
論文和訳
標準治療と比較して,3.5年にわたって正常なHbA1cレベルを標的とする集中治療は死亡率を増加させ,主要な心血管イベントを有意に減少させなかった。これらの調査結果は,2型糖尿病の高リスク患者における厳格な血統コントロールに関して,これまで認識されていなかった害を特定するものだ。
1次アウトカム(仮説検証型のアウトカム)
MACE発生について,E群(厳格治療群 n=5128)が 352 例( 6.9 %)に対しC群(標準治療群 n=5123)では 371 例( 7.2 %) であり,ハザード比は 0.90 (95%信頼区間 [0.78-1.04 ] p=0.16 ),NNT=334人 / 年というものだった。
同時に,標準治療群の203人の患者と比較して,集中治療群の257人の患者が死亡した。ハザード比は 1.22(95 %信頼区間 [ 1.01〜1.46 ] p = 0.04)だった。また,集中治療群では,補助を必要とする低血糖と10 kg以上の体重増加がより頻繁に発生した(P <0.001)。

意外っ!! 厳格にコントロールすると10%ほどリスク低下するかもしれないけれど・・・ 有意差なしでちゅね!!
糖尿病ってHbA1cをしっかり下げれば良いと思ってたのにっ!!

うん,サンプル数としても十分だったにもかかわらず,MACE:心血管系有害事象(非致死的心筋梗塞,非致死的脳卒中,心血管イベントによる死亡)の発生リスクを有意差をもって出すことはできないかもしれへんっていう結果や。
1年あたり334人に1人しか,厳格治療によってMACE発生から救えないかもって,なかなかインパクトがあるわなぁ。
さらに,死亡率が22%上昇したというショッキングな結果も出てしまっている(こちらは二次アウトカムなので仮説生成的な結果だけれども)。標準治療群と比較して,集中治療群では低血糖,体重増加,体液貯留の割合が有意に高かったと書かれてるから,ここらへんに意味がありそうやね。
2次アウトカム(仮説生成型のアウトカム)
それでは,複合アウトカムの各項目についてのアウトカムを見ていこう。
あらゆる理由による死亡
E群(厳格治療群)が257人( 5.0 %) に対して,C群( 標準治療群)では203人( 4.0 %)が死亡した。
ハザード比は 1.22(95 %信頼区間 [ 1.01〜1.46 ] p = 0.04)
NNH= 100人/年
非致死性心筋梗塞
E群(厳格治療群)では 186 例( 3.6 %) に対し C群(標準治療群)では 235 例( 4.6%) であり,ハザード比は 0.76 ( 95 %信頼区間 [ 0.62 – 0.92 ] p = 0.004 )
NNT = 100 人/年
心血管死
E群(厳格治療群)では 135 例( 2.6 %)に対し C群(標準治療群)では 94 例( 1.8 %) であり,ハザード比は 1.35( 95 %信頼区間 [ 1.04 – 1.76 ] p= 0.02)
NNH= 125人/年
非致死性脳卒中
E群(厳格治療群)では 67 例( 1.3 %)に対しC群(標準治療群)では 61 例( 1.2 %) であり,ハザード比は 1.06 ( 95 %信頼区間 [ 0.75 – 1.50 ] p = 0.74 )
NNH = 1,000 人/年 (*ただし,有意差なし)

先生,これはどういう意味なんでちゅか??
なんか…厳格治療すると,なんていうか,リスクがむしろ増えてしまってるような印象なんでちゅけど・・・💦

うん。こういう論文を読むときって,まぁポジティブな結果が出るやろうなぁって思ったりするもんやんな。せやけど,意外と介入治療群の方がむしろ良くないのかもしれへんでって結果が出ることがあるねん。
ACCORD試験から出た仮説(あくまで仮説や)としては,血糖値の厳格コントロールは心筋梗塞リスクを下げる可能性を示した一方で,心血管死リスクを上げてしまうかもしれないというものだった,ってことやね。
けいしゅけの考察

まず,1次アウトカムに関しては有意差が出なかった。ただでさえ複合アウトカムやし,サンプル数も多い試験やのにね。これは非常に興味深い。
医療援助を必要とする低血糖エピソードの年率が集中治療群で3.1%,標準治療群で1.0%で,3年での平均体重増加は2つの群でそれぞれ3.5 kgと0.4 kg。ちなみに各グループの1人の死亡は,死因の裁定された分析によると,低血糖に関連する可能性があると分類された
ACCORD試験の本文に書かれているこの記述は,なかなかインパクトがあるわ。
薬物治療において最も大きな関心ごとって,やっぱり治療を受けることで余命が延びる事やと思うねん(それを望まない人もいると思うけど)。となると,HbA1cをとにかく低くしろーーーー!!!!!っていう治療は患者さんの余命を短くする可能性があるっていう結果(仮説生成だけど)は,考えさせられる結果やね。

そうかぁ,そう考えればええんでちゅね。
僕は今までHbA1cって熊本宣言の内容を患者さんに伝えれば良いって思ってたんでちゅよね。熊本宣言を否定する意味じゃなくって,ホンマに今回のACCORD試験の結果は衝撃的でしゅ!
熊本宣言2013~Keep your A1c below 7%~
HbA1c値 6%未満 血糖正常化のための目標
食事・運動療法のみの人はこの数字が目標です。お薬を飲んでいる人も低血糖を起こさないのであればこの数字をめざしましょう。
HbA1c値 7%未満 糖尿病の合併症を予防するための目標
お薬をのんだり,注射をしている人の目標です。とにかく7にならないことと覚えてください。この数字を超えると糖尿病の三大合併症(神経障害,網膜症,腎症)の可能性が増えてしまいます。
HbA1c値 8%未満 治療がなかなか難しい人のための目標
お薬を強くすると低血糖を繰り返したりするような治療の難しい人でも最悪8%は超えないようにしましょう。

そうやね。大事なのは患者さんを個別にみていくことなんやと思うねん。糖尿病の罹患期間や,年齢,既往歴,食生活などの日常生活なんかも含めて対話を重ねてその人のことを知ることが何よりも大事やと思う。
今回のACCORD試験だって適用できない人はたくさんいると思う。インパクトのある結果だからこそ,それを糖尿病患者さん全体に当てはめようってならないようにしたいね。
けいしゅけのオススメ書籍 3選です☆

これらの書籍は僕が影響を受けまくったものです。どれか一つでもいいので迷わず1冊手に取ってみて下さい。薬を比較の視点で考える,薬学を構造式・理論・エビデンスから見る,人として生きていくのに大切なことって何か・・・。それぞれの本があなたに伝えてくるメッセージを受け取ってみて下さい☆
けいしゅけイチオシ勉強サイト
今回の記事はここまでや☆
最後まで読んでくださってホンマおおきにっ!!お時間を使って読んでくださったことに心から感謝申し上げます!
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